病気で仕事を辞めたとき、傷病手当金と失業保険(雇用保険の基本手当)のどちらを先に受けるかで迷う方は少なくありません。この記事では、2つを同時にもらえない理由、療養中にしておきたい失業保険の受給期間の延長、手続きの順番を、協会けんぽとハローワークの公式情報をもとに、本人とご家族向けに整理します。
傷病手当金と失業保険は同じ期間に両方は受けられず、療養中は傷病手当金が先です
傷病手当金と失業保険は、同じ期間に両方を受けることはできません。傷病手当金は「病気やケガで働けない人」、失業保険は「働ける状態で仕事を探している人」のための給付で、前提となる状態が正反対だからです。療養中は傷病手当金、回復して働ける状態になったら失業保険、というのが基本の順番です。
まず押さえておきたいのは、次の3点です。
- 同時にはもらえない:協会けんぽは、退職後に傷病手当金を受ける条件の1つに「失業給付を受けていないこと」を挙げている
- 療養中に受給期間の延長を申請しておく:失業保険の受給期間は原則として離職した日の翌日から1年間。病気などで引き続き30日以上働けないときは、ハローワークに申請して延長できる
- 回復したら求職の申込み:主治医と相談し、働ける状態になってからハローワークで失業保険の手続きをする
どちらを受けられるか、いつ切り替えるかは、加入していた健康保険(協会けんぽや健康保険組合)とハローワークがそれぞれ判断します。
傷病手当金と失業保険は、何のためのお金かが違います
傷病手当金とは、業務外の病気やケガの療養のために仕事を休み、給与を受けられないときに、健康保険から支給されるお金のことです。全国健康保険協会(協会けんぽ)「傷病手当金」によると、支給期間は支給を開始した日から通算して1年6か月です。退職後も一定の条件を満たせば引き続き受けられますが、仕事に就ける状態になると、その後の支給は止まります。
失業保険(基本手当)とは、雇用保険に加入していた人が離職したあと、新しい仕事を探す間の生活を支えるために支給されるお金のことです。ハローワークインターネットサービス「基本手当について」では、受給の条件として、就職しようとする積極的な意思といつでも就職できる能力があることを挙げ、病気やけがのためすぐには就職できないときは基本手当を受けられないと明記しています。
| 項目 | 傷病手当金 | 失業保険(基本手当) |
|---|---|---|
| 制度 | 健康保険 | 雇用保険 |
| 前提となる状態 | 病気やケガで仕事に就けない | 働く意思と能力があり、仕事を探している |
| 受けられる期間 | 支給開始日から通算1年6か月 | 所定給付日数分(原則、離職日の翌日から1年の受給期間内) |
| 手続きの窓口 | 加入していた協会けんぽ・健康保険組合 | 住所を管轄するハローワーク |
| 退職後の扱い | 条件を満たせば継続して受けられる | 離職後に求職の申込みをして受ける |
「同時にもらえない」は協会けんぽの資料に書かれています
協会けんぽ埼玉支部の研修資料「健康保険の給付金等について」(2025年12月作成)は、退職後も傷病手当金を受けるための要件の1つに「失業給付を受けていないこと」を挙げ、失業給付は働くことができる方に対する給付だと説明しています。
雇用保険の「傷病手当」は、健康保険の傷病手当金とは別の制度です
名前が似ていますが、雇用保険にも「傷病手当」があります。ハローワークによると、求職の申込みをしたあとに15日以上続けて病気やけがで働けなくなったとき、基本手当の代わりに支給されるもので、日額は基本手当と同じです。ただし、病気やけがについてほかの法令による類似の給付を受ける日は支給されないとされています。健康保険の傷病手当金を受けている期間の扱いは、ハローワークで確認してください。
療養が長引きそうなら、失業保険の受給期間の延長を申請しておきます
失業保険の受給期間は、原則として離職した日の翌日から1年間です。基本手当はこの期間内の失業している日について支給されるため、療養で1年の大半を過ごすと、所定給付日数を受けきれない可能性があります。そこで、病気やけがで引き続き30日以上働けなくなったときは、ハローワークに申請して受給期間を延長できます。
| 延長のポイント | ハローワークの案内(2026年9月時点で確認) |
|---|---|
| 対象になるとき | 病気、けが、妊娠、出産、育児などで引き続き30日以上働けなくなったとき |
| 延長できる期間 | 働けなかった日数分。最長3年間(受給期間は合わせて最長で離職日の翌日から4年以内) |
| 申請の時期 | 30日以上働けなくなった日の翌日以降、早めの申請が原則。延長後の受給期間の最後の日までなら申請できる |
| 申請先 | 住所または居所を管轄するハローワーク。代理人や郵送でも申請できる |
| 主な書類 | 受給期間延長申請書、離職票-2、延長の理由を証明する書類など |
所定給付日数が330日・360日の方は、もともとの受給期間が1年より長いため、延長できる期間はそれぞれ最大で3年から30日・60日を引いた期間になります。必要書類の例は、東京労働局の「求職者給付に関するQ&A」に載っています。延長の理由を証明する書類として何を出せばよいかは人によって違うため、申請先のハローワークに確認してください。
申請の期限は平成29年4月に見直されています
厚生労働省のリーフレット「受給期間延長の申請期限を変更します」によると、平成29年4月1日から、受給期間延長の申請は延長後の受給期間の最後の日まで可能になりました。以前は申請できる期間が短く区切られており、それを過ぎると延長を受けられませんでした。
ただし、同じリーフレットは、申請期間内であっても申請が遅いと、所定給付日数のすべてを受けられない可能性があると注意しています。療養が長引きそうだと分かった段階で、早めに手続きしておくと安心です。
手続きは「退職、傷病手当金、延長申請、回復、求職の申込み」の順に進めます
病気で退職するときの手続きは、健康保険とハローワークで窓口が分かれます。順番をまとめると、次のとおりです。
- 退職前に、傷病手当金を退職後も受けられるか確認する:協会けんぽは、退職日に出勤すると継続給付の条件を満たさず、退職日の翌日以降の傷病手当金は支払えないと案内しています。条件の詳細は「退職後も傷病手当金はもらえる?」で紹介しています。
- 退職後も、傷病手当金の申請を続ける:申請先は、在職中に加入していた協会けんぽまたは健康保険組合です。申請の間隔や書き方は、加入していた健康保険の案内に従います。
- 引き続き30日以上働けない状態になったら、受給期間の延長を申請する:離職票が届いたら、住所を管轄するハローワークへ。体調がすぐれないときは郵送や代理人でも申請できます。
- 主治医と相談して、働ける状態かどうかを確かめる:働ける状態になると傷病手当金は止まります。最後の申請期間と支給の終わりを、加入していた健康保険に確認しておきます。
- ハローワークで求職の申込みをして、失業保険の手続きをする:離職票などを持って手続きします。延長していた場合は、その旨も伝えます。
傷病手当金の1年6か月が先に終わっても、まだ働ける状態でなければ失業保険は受けられません。療養が長く続くときの生活の支えは、障害年金などほかの制度も含めて考えることになります。制度の全体像は「障害のある人がもらえるお金・手当の一覧」で確認できます。
障害者手帳などがある人は、所定給付日数が長くなることがあります
ハローワークの「基本手当の所定給付日数」には「就職困難者」の区分があります。倒産や解雇などによる離職ではない一般の離職者は90〜150日ですが、就職困難者は、雇用保険の加入期間が1年以上なら45歳未満で300日、45歳以上65歳未満で360日です。障害のある人がどのような場合に就職困難者として扱われるかは、「障害のある人の失業保険(就職困難者)」で紹介しています。
傷病手当金と失業保険のよくある誤解
よく見かける誤解を、公式の案内にそって整理しました。
| よくある誤解 | 公式の案内にそった説明 |
|---|---|
| 傷病手当金と失業保険は同時にもらえる | 協会けんぽは退職後の傷病手当金の要件に「失業給付を受けていないこと」を挙げている |
| 延長の申請は退職後すぐにしないと間に合わない | 平成29年4月から、延長後の受給期間の最後の日まで申請できる。ただし早めの申請が原則 |
| 延長しなくても、回復すればいつでも失業保険を受けられる | 受給期間は原則離職日の翌日から1年。療養で過ぎてしまうと、残りの日数を受けられない可能性がある |
| 延長すると失業保険の日数が増える | 延びるのは受け取れる期間。所定給付日数は年齢・加入期間・離職理由などで決まる |
| 雇用保険の「傷病手当」と健康保険の「傷病手当金」は同じもの | 別の制度。雇用保険の傷病手当は、求職の申込み後に15日以上働けなくなったときのもの |
| 傷病手当金が終われば、自動的に失業保険に切り替わる | 失業保険は、働ける状態で自分からハローワークに求職の申込みをすることが前提 |
表は2026年9月時点の公式ページで確認した内容です。制度が変わることがあるため、最新の情報や自分の場合の扱いは、加入していた健康保険とハローワークでご確認ください。
回復の途中でB型に通う人の場合
B型の利用が傷病手当金や失業保険にどう影響するかは、加入していた健康保険とハローワークがそれぞれ判断します。傷病手当金は「仕事に就けない」ことが、失業保険は「すぐに働ける状態で仕事を探している」ことが前提なので、B型に通い始める前に、どちらの窓口にも確認しておくのが安心です。
就労継続支援B型とは、一般企業での雇用が難しいときに、体調に合わせて作業に取り組める障害福祉サービスです。療養を終えてすぐにフルタイムの仕事を探すのは不安、という方にとっては、生活リズムを整えながら少しずつ働く準備をする選択肢の1つになります。利用には市区町村が発行する受給者証が必要です。
- 傷病手当金を受けている間の通所は、労務不能の判断にかかわることがあるため、主治医と加入していた健康保険に相談する
- 失業保険の延長中や受給中に通所を考えるときは、求職活動との関係をハローワークに確認する
- 体調に合わせて「療養、B型で生活を整える、仕事を探す」と段階を踏む進め方もある
傷病手当金とB型の関係は「傷病手当金をもらいながらB型に通える?」、失業保険とB型の関係や就職困難者の扱いは「障害のある人の失業保険(就職困難者)」で詳しく紹介しています。
ぽちぽちの道の場合
お金の手続きが一段落すると、次は日中の過ごし方や働き方が気になってくる方も多いです。ぽちぽちの道では、傷病手当金や失業保険を受けられるかどうかを判断することはできません。監修のサービス管理責任者も社会保険の専門家ではないため、給付の扱いは加入していた健康保険とハローワークにご相談ください。そのうえで、B型の利用を考えるときのご相談はお受けしています。
ぽちぽちの道は、東武東上線「志木駅」東口から徒歩2分にある、IT・パソコン作業に特化した就労継続支援B型事業所です。送迎は行っていないため、見学のときに通い方を一緒に確認します。
作業内容はパソコン作業が中心で、データ入力、Canvaでの画像・SNS素材づくり、生成AIを使った文章の下書きや調べ物などに取り組んでいます。パソコンが苦手な方や未経験の方も歓迎しており、週1日からの通所も相談できます。「まだ療養中なので、情報だけ集めておきたい」という段階でも、LINEでの相談や見学を受け付けています。
傷病手当金と失業保険についてよくある質問
傷病手当金と失業保険を同じ月に両方もらうことはできますか?
同じ期間に両方を受けることはできません。傷病手当金は働けない人、失業保険は働ける状態で仕事を探している人のための給付だからです。月の途中で回復して切り替える場合の扱いは、加入していた健康保険とハローワークに確認してください。
失業保険の受給期間の延長は、退職してからいつまでに申請すればいいですか?
病気などで引き続き30日以上働けなくなった日の翌日以降、延長後の受給期間の最後の日までなら申請できます。ただし、申請が遅いと所定給付日数のすべてを受けられない可能性があるため、早めの申請が原則です。申請先は住所を管轄するハローワークです。
傷病手当金の支給が終わったら、すぐ失業保険に切り替えられますか?
切り替えは自動ではなく、働ける状態になってから自分でハローワークに求職の申込みをする必要があります。傷病手当金の期間が終わってもまだ働けない場合は、失業保険は受けられません。受給期間の延長をしていたかどうかも含めて、ハローワークで相談してください。
体調が悪くてハローワークに行けないとき、受給期間の延長は申請できますか?
ハローワークは、受給期間延長の申請は代理人や郵送でもよいと案内しています。必要な書類は受給期間延長申請書や離職票-2、延長の理由を証明する書類などです。代理人の場合に必要なものは、申請先のハローワークに事前に確認しておくと安心です。
回復の途中でB型を利用すると、失業保険の延長や受給に影響しますか?
影響があるかどうかは、ハローワークが個別に判断します。失業保険はすぐに働ける状態で仕事を探していることが前提なので、B型に通い始める前に、延長中か受給中かを伝えたうえでハローワークに確認してください。傷病手当金を受けている間は、加入していた健康保険と主治医にも相談しておきます。
まとめ
傷病手当金と失業保険は同じ期間に両方は受けられず、療養中は傷病手当金、回復して働ける状態になったら失業保険が基本の順番です。療養が長引きそうなときは、失業保険の受給期間の延長を早めにハローワークへ申請しておくと、回復後に手続きしやすくなります。個別の扱いは、加入していた健康保険とハローワークに確認してください。
回復の途中で日中の過ごし方を考え始めたら、LINEでの相談や見学から始められます。質問だけでも大丈夫です。お金の制度をまとめて確認したい方は「障害のある人がもらえるお金・手当の一覧」、うつ病などで休職中の方は「うつ病で傷病手当金はもらえる?」もあわせてご覧ください。
運営:ぽちぽちの道(株式会社イチドキリ)
どこに相談すればいいか迷ったら
お住まいの地域で相談するには
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監修者
田中 眞奈美(サービス管理責任者)
介護職、生活支援員業務、就労移行支援事業所での管理者業務など、介護・福祉業界にて多彩な経験を持つ福祉のプロフェッショナル。ぽちぽちの道では、サービス管理責任者として個別支援計画の策定および支援全体のマネジメントを担う。

執筆者
徳永 崇志(職業指導員・株式会社イチドキリ 代表取締役)
岡山大学教育学部出身。株式会社日立システムズでエンジニアとしてキャリアをスタートし、株式会社リクルートで教育系SaaS「スタディサプリ」の法人営業に従事。その後、複数社で生成AIを活用したプロダクトの事業立ち上げを経験。ぽちぽちの道では、生成AI・ITを活用した生産活動の職業指導を担当。厚生労働省「精神・発達障害者しごとサポーター」講座修了。

