うつ病や適応障害で会社を休むとき、傷病手当金が受けられるかは病名ではなく、支給の要件を満たすかどうかで決まります。この記事では、心の不調で休職中の会社員ご本人とご家族に向けて、4つの要件、金額の計算の仕方、申請書の医師の意見欄で書かれること、休職中に気をつけたいことを、協会けんぽと厚生労働省の資料で整理しました。
うつ病・適応障害でも、4つの要件を満たせば傷病手当金の対象になります
傷病手当金は、うつ病や適応障害などの精神疾患だから対象外、という制度ではありません。協会けんぽ(全国健康保険協会)の「傷病手当金」のページでは、次の4つの要件をすべて満たす場合に支給の対象になると案内されています。
| 要件 | 協会けんぽの説明(要約) | 心の不調で休むときに確認したいこと |
|---|---|---|
| ① 業務外の病気やケガの療養のための休業 | 自宅療養の期間も対象。業務上・通勤災害によるものは労災保険の対象 | 仕事が原因と考えられる場合は、労災保険との関係を会社や労働基準監督署に確認する |
| ② 仕事に就くことができない | 療養担当者の意見等をもとに、本人の仕事の内容を考慮して判断 | 主治医に、いまの仕事の内容を具体的に伝えておく |
| ③ 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかった | 連続3日間(待期)のあと、4日目以降の休んだ日が対象。待期には有給休暇や土日・祝日も含む | 2日休んで3日目に出勤すると待期は成立しない |
| ④ 休業した期間に給与の支払いがない | 給与が出ている間は支給されない。傷病手当金の額より少なければ差額を支給 | 休職中の給与の扱いを会社の規程で確認する |
傷病手当金とは、病気やケガで会社を休み、十分な報酬が受けられないときに、加入している健康保険から支給される給付のことです。会社員など健康保険の被保険者が対象です。国民健康保険に加入している方は、お住まいの市区町村の担当窓口で確認してください。
実際に、心の不調は傷病手当金の受給理由でいちばん多い分類です。協会けんぽの「現金給付受給者状況調査報告(令和6年度)」(令和6年10月の受給者が対象)では、受給の原因となった傷病のうち「精神及び行動の障害」が39.15%で最も高く、平均支給期間も215.28日と、傷病別で最も長い結果でした。
ただし、あなたの場合に支給されるかどうかを決めるのは、加入している健康保険(協会けんぽ・健康保険組合など)です。この記事は協会けんぽの案内をもとにしているため、健康保険組合や共済組合に加入している方は、加入先の案内もあわせて確認してください。
傷病手当金の金額は「標準報酬月額の平均÷30×2/3」で計算します
1日あたりの傷病手当金は、支給開始日以前12か月の標準報酬月額を平均し、30で割った額の3分の2です。標準報酬月額とは、保険料や年金額の計算に使うために、基本給に残業手当や通勤手当などを含めた税引き前の給与を、一定の幅で区分した等級のことです(協会けんぽ「用語集」より)。
協会けんぽのページに載っている計算例(支給開始日が令和8年2月15日の場合)で、計算の順番を確認します。
- 支給開始日以前12か月の標準報酬月額を確認する(例:令和7年3月〜8月が16万円、令和7年9月〜令和8年2月が18万円)
- 12か月分を平均する(例:(16万円×6+18万円×6)÷12=17万円)
- 平均を30で割る(例:17万円÷30≒5,670円。10円未満は四捨五入)
- 3分の2を掛ける(例:5,670円×2/3=3,780円。1円未満は四捨五入)
この例では、1日あたりの支給額は3,780円です。あくまで計算の仕方を示した例なので、ご自身の標準報酬月額は、会社の担当者や加入先の健康保険で確認してください。
加入期間や休み方によって、金額が変わる場面もあります。
- 支給開始日以前の期間が12か月に満たない場合:直近の継続した各月の標準報酬月額の平均と、協会けんぽが示す額(支給開始日が令和7年4月1日以降の方は32万円)のいずれか低い額で計算する
- 休職中に給与が一部支払われている場合:給与が傷病手当金の額より少なければ、その差額が支給される
- 同じ病気で障害厚生年金や障害手当金を受けている場合:申請書の記入の手引きでは、傷病手当金の額を調整すると案内されている
支給される期間は、支給を開始した日から通算して1年6か月です。厚生労働省「令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます」によると、支給期間中に復職するなどして支給されない期間があれば、支給開始日から1年6か月を超えても、繰り越して支給できるしくみになっています。
申請書の医師の意見欄では、労務不能と認めた期間や症状の経過が書かれます
傷病手当金の申請では、主治医が「療養担当者記入用」の欄に、仕事ができなかったと認める期間や症状の経過を記入します。協会けんぽの「健康保険傷病手当金支給申請書」は、書く人ごとに次の3つに分かれています。
| 記入する人 | 主な内容 |
|---|---|
| 本人(被保険者記入用) | 申請期間、仕事の内容、給与の支払いの有無、障害年金などの受給状況 |
| 会社(事業主記入用) | 申請期間の出勤日、給与などを支払った日と金額 |
| 主治医(療養担当者記入用) | 傷病名、初診日、労務不能と認めた期間、期間中の主な症状と経過、治療内容や療養指導、期間中に診療した日の有無 |
主治医の欄の「労務不能と認めた期間」には、「勤務先での従前の労務に服することができない期間」という説明がついています。家で過ごせるかどうかではなく、それまで勤務先でしていた仕事ができるかどうかが問われる書き方です。本人記入用にも、仕事の内容を「経理担当事務」のように具体的に書く欄があります。
通院の頻度や申請の区切り方は、主治医や加入先と決めます
申請書には「労務不能と認めた期間に診療した日があったか」を答える項目があります。ただ、申請のために何回通院すればよいかを定めた公式の記載は確認できませんでした。通院の間隔は、体調に合わせて主治医と決めてください。
申請の区切り方は、協会けんぽの記入の手引きでは次のように案内されています。
- 申請書は、申請する期間が過ぎてから提出する(前もって出すことはできない)
- 1枚の申請期間は暦で3か月以内にする(3か月を超える場合は用紙を分ける)
- 初めて申請するときは、待期(3日間連続して休んだ日)の初日から申請する
- 健康保険の給付を受ける権利は2年で時効になり、傷病手当金は労務不能だった日ごとにその翌日から数える
1か月ごとに区切って申請する人もいますが、区切り方は会社の手続きや加入先の運用で変わることがあります。協会けんぽでは、審査の結果支払いが可能であれば、受付日から10営業日以内に支払うと案内しています。
休職中は、療養を第一に、活動の内容を主治医と相談しながら決めます
傷病手当金を受けている期間は、療養のために仕事に就けない期間です。散歩や家事、生活リズムを整えるための外出などをどこまでしてよいかは、療養の内容を知っている主治医と相談しながら決めるのが基本です。労務不能かどうかは、主治医の意見などをもとに加入先の健康保険が判断します。
休職中に迷いやすいことを、確認先とあわせてまとめました。
- 会社に出勤した日:事業主記入用の欄に出勤日として記入されるため、傷病手当金の対象になるかは加入先に確認する
- アルバイトや副業:収入を得る活動が「仕事に就けない」という判断にどう影響するかは、始める前に加入先の健康保険と主治医に確認する
- リワークやデイケア:復職に向けたプログラムは、主治医の指示や紹介のもとで利用を検討する。傷病手当金との関係が気になるときは加入先に確認する
- 退職を考え始めたとき:退職後も続けて受ける「継続給付」には、退職日までに継続して1年以上被保険者だったことなどの条件がある
- いったん働ける状態になったとき:協会けんぽは、退職後に一度仕事に就ける状態になると、その後また働けなくなっても支給されないと案内している
どこからが「仕事」にあたるかを、自分だけで線引きする必要はありません。迷ったら、始める前に加入先の健康保険と主治医に聞くのがいちばん確実です。退職後の継続給付の条件は「傷病手当金は退職後ももらえる?」で詳しく紹介しています。
休職中にB型を検討している人の場合
休職中にB型事業所の利用を考えるときは、「休職中に利用できるか」と「傷病手当金に影響するか」を分けて確認します。就労継続支援B型とは、障害や病気のある人が雇用契約を結ばずに、体調に合わせて作業に取り組み、工賃を受け取る障害福祉サービスのことです。
B型は雇用契約がありませんが、それだけで傷病手当金に影響しないと言えるわけではありません。労務不能かどうかは、主治医の意見などをもとに加入先の健康保険が判断します。通所を考え始めたら、主治医と加入先の健康保険に先に確認してください。
- 休職中にB型を利用できるか(会社の規程、市区町村の判断)は「休職中でもB型事業所は利用できる?」
- 傷病手当金を受けながらの通所の考え方は「傷病手当金をもらいながらB型に通える?」
B型の利用に必要な受給者証の申請先は、お住まいの市区町村の障害福祉担当です。障害者手帳は必須とは限らず、うつ病や適応障害での手帳の考え方は「うつ病・適応障害で障害者手帳はもらえる?」にまとめています。
復職するか退職するかで、次に使う制度が変わります
傷病手当金を受けたあとの道は、大きく「復職する」「退職する」「すぐに働くのは難しい」の3つに分かれます。どの道でも、先に主治医と相談し、制度は加入先や窓口で確認する順番は変わりません。
| これからの道 | 検討する制度・サービスの例 | 主な確認先 | 詳しい記事 |
|---|---|---|---|
| 復職を目指す | リワーク(復職支援プログラム) | 主治医、会社の人事や産業医 | リワークとB型の違い |
| 復職後、同じ病気でまた休む | 支給期間の残り(通算1年6か月の範囲) | 加入先の健康保険 | この記事の「金額」の見出し |
| 退職して療養を続ける | 傷病手当金の継続給付 | 加入先の健康保険 | 傷病手当金は退職後ももらえる? |
| 退職後、働ける状態になった | 雇用保険の基本手当(失業保険) | ハローワーク | 傷病手当金と失業保険の順番 |
| すぐに働くのは難しく、日中の居場所がほしい | 就労継続支援B型など | 市区町村の障害福祉担当 | 休職中でもB型事業所は利用できる? |
傷病手当金は「働けない」期間の給付、失業保険は「働ける状態で仕事を探す」期間の給付なので、退職後はどちらを先に考えるかの順番が大切です。支給期間を過ぎても働くのが難しい場合に、障害年金を検討する人もいます。うつ病での障害年金は「うつ病で障害年金はもらえる?」で紹介しています。
ぽちぽちの道の場合
休職や退職のあと、お金のことと日中の過ごし方を同時に考えるのは負担が大きいものです。ぽちぽちの道では、傷病手当金の支給や労務不能の判断はできませんし、監修のサービス管理責任者も社会保険の専門家ではありません。手当のことは加入先の健康保険と主治医にご相談いただき、そのうえで「B型という選択肢がある場合、何を確認すればいいか」の整理をお手伝いしています。
ぽちぽちの道は、東武東上線「志木駅」東口から徒歩2分にある、IT・パソコン作業に特化した就労継続支援B型事業所です。送迎は行っていないため、見学のときに通い方も一緒に確認します。
作業内容はパソコン作業が中心で、データ入力、Canvaでの画像・SNS素材づくり、生成AIを使った文章の下書きや調べ物などに取り組んでいます。パソコンが苦手な方や未経験の方も歓迎しており、週1日からの通所も相談できます。「主治医や健康保険に確認している途中だけれど、まず話を聞いてみたい」という段階でも、LINEでの相談や見学を受け付けています。
うつ病・適応障害と傷病手当金についてよくある質問
適応障害と診断されても、傷病手当金の対象になりますか?
適応障害という病名だけで対象外になることはなく、業務外の病気であること、仕事に就けないこと、待期3日を含む4日以上の休業、給与の支払いがないことの4要件で判断されます。仕事に就けるかどうかは、主治医の意見などをもとに加入先の健康保険が判断します。仕事が原因と考えられる場合は、労災保険との関係もあわせて確認してください。
うつ病の傷病手当金の申請で、医師の意見欄は申請のたびに必要ですか?
協会けんぽの申請書には、申請する期間について主治医が記入する「療養担当者記入用」の欄があり、労務不能と認めた期間や症状の経過が書かれます。申請書は申請期間が過ぎてから提出し、1枚の申請期間は暦で3か月以内とされています。区切り方や書類の扱いは加入先によって違うことがあるため、加入している健康保険に確認してください。
休職中に給料が一部支払われていると、傷病手当金はもらえませんか?
給与が支払われている間は原則として支給されませんが、給与の額が傷病手当金の額より少ない場合は、その差額が支給されます。休職中の給与の扱いは会社によって違うため、まず就業規則や人事担当者に確認してください。支給額の計算は加入先の健康保険が行います。
傷病手当金をもらいながら、リワークに通っても大丈夫ですか?
リワークは復職に向けたプログラムで、利用は主治医と相談しながら検討します。利用が傷病手当金の判断にどう影響するかを一律に言うことはできないため、利用を始める前に主治医と加入先の健康保険に確認してください。リワークとB型の違いは、関連記事で紹介しています。
うつ病で傷病手当金を1年6か月受けたあとは、どうなりますか?
傷病手当金の支給期間は、支給を開始した日から通算して1年6か月なので、その期間を過ぎると支給されません。途中で復職して支給されなかった期間があれば、その分は繰り越せるしくみです。その後も働くのが難しい場合は、障害年金など別の制度を年金事務所で相談する方法があります。
まとめ
うつ病や適応障害でも、業務外の病気、仕事に就けないこと、待期3日を含む4日以上の休業、給与の支払いがないことの4要件を満たせば、傷病手当金の対象になります。金額は標準報酬月額の平均をもとに計算され、仕事に就けるかどうかは主治医の意見などをもとに加入先の健康保険が判断します。休職中の活動や退職の判断は、主治医と加入先に先に相談してください。
制度の確認を進めながら、日中の過ごし方やB型のことも考えてみたくなったら、LINEでの相談や見学から始められます。質問だけでも大丈夫です。お金の制度をまとめて確認したい方は「障害のある人がもらえるお金・手当の一覧」もあわせてご覧ください。
運営:ぽちぽちの道(株式会社イチドキリ)
どこに相談すればいいか迷ったら
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監修者
田中 眞奈美(サービス管理責任者)
介護職、生活支援員業務、就労移行支援事業所での管理者業務など、介護・福祉業界にて多彩な経験を持つ福祉のプロフェッショナル。ぽちぽちの道では、サービス管理責任者として個別支援計画の策定および支援全体のマネジメントを担う。

執筆者
徳永 崇志(職業指導員・株式会社イチドキリ 代表取締役)
岡山大学教育学部出身。株式会社日立システムズでエンジニアとしてキャリアをスタートし、株式会社リクルートで教育系SaaS「スタディサプリ」の法人営業に従事。その後、複数社で生成AIを活用したプロダクトの事業立ち上げを経験。ぽちぽちの道では、生成AI・ITを活用した生産活動の職業指導を担当。厚生労働省「精神・発達障害者しごとサポーター」講座修了。

